2026-09-27 / OOTD編集部 / 会社制服 / 事務服 / 作業着 / 仕事服 / 企業文化 / 服装史
日本の会社制服はなぜ広がった?事務服・作業着が担った役割の変化
受付のベストとスカート、工場の上下作業着、鉄道員や配送員の制服。同じ『会社制服』でも、目的は一つではありません。作業中の私服を守るため、職種を見分けるため、安全や衛生を保つため、会社の印象を統一するため。時代によって、制服へ期待された役割は変わってきました。
日本の会社制服は、最初から企業ブランディングの道具だったわけではありません。 近代の官設インフラと工場、衣服がまだ高価だった戦後、高度成長と大阪万博、バブル崩壊後の廃止と再設計をたどると、仕事服は経済、素材技術、雇用慣行、ジェンダー観の変化を映す小さな社会史に見えてきます。
この記事の範囲
明治以降の日本で組織的に用いられた仕事服のうち、民間企業の事務服・作業着を中心に扱い、郵便・鉄道等の公的制服は成立過程の背景として触れます。軍服、学校制服、礼服の通史ではありません。業界団体の沿革記事、図書館のレファレンス、労働調査、行政資料を照合し、特定企業の制服採用・廃止を日本全体の単一傾向として一般化しません。
Quick Answer|会社制服の役割は『支給・宣伝・機能・選択』へ移った
- 明治: 郵便、鉄道、官営工場等で、職務の識別と洋式作業のための服装が整えられました。
- 戦後: 衣服が高価な時代、制服支給は私服を汚さず働ける福利厚生の意味を持ちました。
- 1970年代以降: 大阪万博やCIの広がりを背景に、事務服は企業イメージを見せる媒体になりました。
- 1990年代以降: 景気後退、カジュアル化、雇用の変化を受け、廃止・簡素化・職種別の再設計が進みました。
- 現在: 安全、衛生、識別、動作、洗濯性に加え、サイズ、性別、障害、気候、回収まで含む運用が問われます。

仕事服の形は、職場の要求と社会の価値観が重なる場所です。似た紺やグレーでも、支給する理由と入れる機能は時代ごとに変わってきました。
『制服』『ユニフォーム』『仕事服』は少しずつ違う
日本ユニフォーム協議会は、仕事に必要な機能と外見を備えた服を事務服・作業服、総称して仕事服と説明しています。ユニフォームは、集団の識別や業務上の利便性のため、衣服だけでなく帽子、靴、手袋、持ち物、着こなしまで含むことがあります。
一方、会社で同じ服を着る仕組みは、すべて同じ強さの『制服』ではありません。会社が貸与し着用を義務付ける物、選択肢から選ぶ物、部署だけ共通の上着、私服の上に着るエプロン等があります。歴史を読む時も、形だけでなく誰が決め、誰に支給し、何の仕事で着たかを見ます。
時代別|会社制服が担った主な役割
| 時代 | 社会・産業の背景 | 仕事服の役割 | 見落としたくない点 |
|---|---|---|---|
| 明治初期~ | 郵便・鉄道・官営模範工場等の整備 | 職務識別、洋式の作業、組織の信用 | 民間企業だけで始まった歴史ではない |
| 戦後~1950年代 | 復興、大規模雇用、衣服の不足と高価格 | 私服保護、就労支援、福利厚生としての支給 | 制服を買える企業自体が安定の印にもなった |
| 高度成長期 | 合成繊維の普及、大企業と公共部門の拡大 | 大量支給、耐久性、洗いやすさ、所属意識 | 非正規・季節労働者には一律支給されない例もあった |
| 1970年代 | 大阪万博、ファッション化、CIの広がり | 企業イメージ、採用広報、接客の見える化 | とくに女性の外見が企業の顔として利用された |
| バブル期 | 好景気、高級化、選べるセットの増加 | 差別化、複数アイテム、福利厚生の充実 | スカート・キュロット・パンツ等の選択も増えた |
| 1990年代~ | 景気後退、均等法、IT産業、カジュアル化 | 廃止、簡素化、費用対効果の再検討 | 廃止だけでなく職種別復活・再設計もある |
| 現在 | 多様な働き手、安全・衛生、環境負荷 | 機能、識別、選択肢、回収・再資源化 | 同じ見た目より運用と合意が重要になる |
近代の仕事服は、インフラと工場から見えてくる
郵便、鉄道、工場が『見れば仕事が分かる服』を必要とした
日本ユニフォーム協議会の沿革では、1871年の郵便制度、1872年の鉄道開通等で職員の制服が定められたこと、富岡製糸場をはじめとする官営模範工場で作業スタイルやエプロン、帽子、手袋等が支給されたことが挙げられています。近代の大きな組織は、人と役割を見分け、一定の工程で働くための服を必要としました。
作業服は服だけで完結しない
工具を収めるポケット、埃を入りにくくする形、機械へ巻き込まれにくい裾、帽子や手袋との組み合わせ等、仕事服は道具と動作の一部です。外見が似ていても、事務服と製造現場の作業着では必要な性能が違います。会社制服の歴史を女性のベストとスカートだけで語ると、技術職・運輸・製造の大きな系譜が抜け落ちます。
会社が制服へ求めてきた4機能
1. 体と私服を守る
汚れ、熱、摩耗、静電気等への対応。必要性能は職場の危険評価から決まります。
2. 役割を見分ける
利用者が受付、整備、警備、案内等へ迷わず声を掛けられるようにします。
3. 働く服を支給する
衣服が高価だった時代には、私服を用意できるかという負担を下げる役割がありました。
4. 組織を見せる
色、形、ロゴで企業イメージを統一。ただし着用者の負担や職務機能との両立が必要です。
戦後、制服は『服を持って働く負担』を下げた
福利厚生品としての制服
戦後の復興期は、今より衣服が高価で、仕事用の服を何着も持つことが難しい時代でした。業界史は、制服支給に私服を汚さないこと、職場で着る服が足りないことを理由に就労をためらわなくてよいようにする意味があったと説明しています。制服は規律だけでなく、現物支給の福利厚生でもあったのです。
ナイロンとポリエステルが大量支給を支えた
戦後に合成繊維の生産が本格化し、耐久性や管理しやすさを持つ生地が広がりました。制服は多人数へ同じ仕様を届け、洗濯と更新を回す製品です。素材の安定供給と縫製産業の発展は、会社制服を特別な仕立て服から広い市場へ移す条件になりました。
全員に同じように届いたわけではない
高度成長期にも、季節労働者や非正規社員へ一律支給しない事業所があったと業界史は記します。『制服がある会社』という記憶の陰には、雇用形態、職種、性別で支給条件が違った可能性があります。社史写真を見る時は、写っていない働き手も考えます。
1970年大阪万博が変えたもの
| それ以前 | 万博とその後 | 企業側の狙い | 着用者側の論点 |
|---|---|---|---|
| 地味な簡易スーツや私服の上のスモック | ワンピース、ジャンパースカート、目立つ色と形 | パビリオンと企業を記憶させる | 若さや女性らしさを過度に求めないか |
| 経営者が決める支給品 | 着用者の意見を取り入れる動き | 定着率、社内の一体感 | サイズ、動作、洗濯、選択肢 |
| 汚れ防止が中心 | 会社案内やメディアに映る制服 | 採用、接客、CI | 仕事より外見評価が先行しないか |
| 単品支給 | ベスト、ブラウス、スカート、パンツのセット化 | 季節対応と統一感 | 着替え、保管、支給格差 |
万博を『女性制服の成功物語』だけで読まない
1970年大阪万博では、各パビリオンの案内役が着たデザイナーズユニフォームが注目され、企業制服のファッション化と広告利用を後押ししたとされています。そこからワンピースやジャンパースカート、ベスト等が事務服へ広がりました。
同時に、企業の顔として女性の若さや外見が強く使われた歴史でもあります。着る人の意見が増えた面と、限られた性別・年齢像を宣伝へ使った面を両方見なければ、現代の制服選びへつながりません。

現代の制服設計では、見た目を一つにそろえる前に、職務、動作、サイズ、着脱、温度、障害、本人の選択を試着で確認することが重要です。
バブル崩壊後、制服は廃止と復活を繰り返した
高級セットから費用対効果へ
バブル期には、スカート、キュロット、パンツ、色柄違いブラウス、複数のベスト等を組み合わせる事務服セットも登場しました。ところが景気後退後は、高級な制服が経営環境と合わなくなり、更新延期、簡素化、廃止が進みました。制服は一度決めれば続く伝統ではなく、予算と職場像で変わる制度です。
廃止は常に自由化、復活は常に逆戻りではない
私服化は自己表現を広げる一方、毎日の服代や選択負担を個人へ戻すことがあります。制服復活も、全員へ同じ服を強いる形だけでなく、来店客が役割を見分けやすい部署だけ共通服にする等、職種別の再設計があります。採用か廃止かの二択より、目的と対象を細かく分ける方が実態に近づきます。
カジュアル化は制服の消滅とは限らない
JILPTの2024年調査紹介には、事務職制服の廃止や、TPOに応じて本人が判断する服装運用の例があります。一方で医療、宿泊、製造、運輸等では、識別・安全・衛生上の仕事服が残ります。オフィスの私服化を日本の全職場へ一般化しません。
2020年の労働調査から見る『着替えが必要な仕事』
| 区分 | 制服等で着替えが必要と答えた割合 | 読み方 |
|---|---|---|
| 全体 | 44.1% | 制服・作業着は一部業界だけの例外とは言い切れない |
| 事務所 | 23.7% | 一般事務では私服化が進んでも着替え需要は残る |
| 工場・作業所 | 61.0% | 安全・汚れ・工程管理と結びつきやすい |
| 病院・医療・介護施設 | 77.7% | 衛生、識別、職務機能の比重が高い |
| 旅館・ホテル等 | 61.6% | 利用者からの識別と接客イメージが重なる |
| 情報通信業 | 6.6% | 業種による差が大きく、会社員全体を一括りにできない |
この数字は『会社制服の着用率』そのものではない
JILPTの2020年調査は、事業所で事務用制服の着用等、着替えの必要があるかを尋ねたものです。防護服、作業着、衛生服等も含み得るため、女性事務服だけの普及率として読めません。
それでも、事務所と工場、医療、宿泊、情報通信で大きな差があることは、制服の現在が企業文化だけでなく仕事の内容に左右されることを示します。
現代の制服は『誰を同じにするか』を問い直す
女性だけへ支給する慣行
厚生労働省系の均等法資料では、一般に女性だけへ制服を支給することへ合理的理由は認められにくく、男女とも支給しない、または男女とも支給する対応が考えられるとされています。歴史的に女性事務服が企業の顔として強く扱われたからこそ、現在は職務上の必要と性別を分けて考える必要があります。
男女二型を置くだけでは足りない
スカートとパンツを選べる、ジャケットをジェンダーニュートラルな型にする、幅広いサイズを試せる、妊娠、障害、宗教、感覚過敏、医療上の事情へ個別調整する等、選択の設計が必要です。着用者が不利益を恐れず要望を伝えられる窓口も制服の一部です。
会社の顔より先に、仕事ができるか
腕が上がるか、座れるか、車いすの部品へ裾が触れないか、名札が医療機器や宗教的衣服と干渉しないか、着替え場所と時間が確保されるか。現代の制服はデザイン画だけでは完成せず、複数の着用者による業務動作テストで完成します。
服をそろえる時代から、循環まで設計する時代へ
制服は退職時に普通ごみへ出す物とは限らない
会社名やロゴが入った制服は、情報管理とブランド管理の理由で返却を求められることがあります。素材や排出形態によって廃棄・回収の扱いも変わるため、個人判断で売却、譲渡、廃棄しません。会社の返却手順を確認します。
リサイクルしやすさは採用時に決まる
日本ユニフォーム協議会は、企業制服の廃棄と再資源化を業界課題として紹介しています。単一素材か、付属品を外せるか、回収ルートがあるか、補修して長く使えるかは、廃棄時ではなく企画・調達時に決まります。枚数と価格だけでなく、交換と回収まで契約に含める視点が必要です。
会社制服を見直す18項目
- 制服の目的を安全、衛生、識別、接客、私服保護に分けた。
- 職種ごとに本当に必要な範囲を確認した。
- 性別ではなく職務から支給対象を決めた。
- スカート、パンツ、上着等の選択肢がある。
- 幅広いサイズと試着期間を用意した。
- 妊娠、障害、宗教、医療上の個別調整窓口がある。
- 腕上げ、屈伸、着席、歩行、運転等を試した。
- ポケット位置と必要工具・端末の相性を試した。
- 暑熱、寒冷、湿度、静電気、汚れを評価した。
- 洗濯方法と乾燥時間を確認した。
- 家庭洗濯の費用と手間の負担者を決めた。
- 着替え場所、保管場所、着替え時間を確認した。
- 非正規・派遣・短時間勤務者の支給条件を明示した。
- 名札、ロゴ、個人情報の扱いを決めた。
- 更新周期と破損時の交換手順を決めた。
- 退職・異動時の返却方法を決めた。
- 補修、再使用、回収、再資源化の経路を確認した。
- 導入後に着用者アンケートと再試着を行う。
よくある質問
Q. 日本の会社制服はいつ頃から広がりましたか?
A. 近代的な仕事服は明治期の郵便、鉄道、官営工場等で整えられ、民間企業にも広がりました。戦後は大規模雇用と福利厚生として支給が増え、高度成長と合成繊維の普及が大量導入を支えました。
Q. 会社が事務服を支給したのはなぜですか?
A. 戦後には高価な私服を汚さず働ける福利厚生の意味があり、その後は接客時の識別、企業イメージ、採用広報等の役割が加わりました。現在は目的を職務ごとに分けて考える必要があります。
Q. 1970年大阪万博は会社制服にどんな影響を与えましたか?
A. 各パビリオンの案内役のデザイナーズ制服が注目され、ワンピースやジャンパースカート、色や形で企業を見せる制服が広がる契機になったと業界史は説明しています。
Q. なぜ1990年代以降に事務服を廃止する会社が増えたのですか?
A. バブル崩壊後の費用見直し、オフィスのカジュアル化、IT産業の成長、雇用やジェンダー観の変化等が重なりました。ただし廃止後に接客部署だけ職種別制服を復活させる例もあります。
Q. 制服を廃止すれば働きやすくなりますか?
A. 一概には言えません。私服化は選択を広げる一方、服代や毎日の判断を個人へ戻す場合があります。制服もサイズ、動作、温度、性別選択、着替え、洗濯の設計が悪ければ負担になります。
Q. 女性だけに事務服を支給してもよいですか?
A. 厚生労働省系の均等法資料では、一般に女性だけへ制服を支給する合理的理由は認められにくいとされています。実際の制度は職務上の必要性と男女均等な取扱いを確認し、専門窓口へ相談してください。
Q. 現代の会社制服で必要な選択肢は何ですか?
A. スカート・パンツ、複数の上着、幅広いサイズだけでなく、妊娠、障害、宗教、医療上の事情へ個別調整できる仕組みが必要です。性別ではなく職務と本人の動作から選べるようにします。
Q. 退職した会社の制服は自分で捨ててもよいですか?
A. 会社名やロゴ、管理上の理由で返却が必要な場合があります。売却、譲渡、廃棄を自己判断せず、就業規則や貸与規程、会社の返却・回収手順を確認します。
会社制服の歴史は、同じ服を着る文化の歴史というより、会社が仕事と働く人をどう見てきたかの歴史です。
私服を守る支給品、企業の顔、安全と衛生の道具、選択できる仕事服。次の制服を考える時は、昔の形を残すかではなく、今の仕事に必要な役割を残せているかを問い直します。
参考資料
- 日本ユニフォーム協議会「仕事服の沿革」
- 日本ユニフォーム協議会「ユニフォームの基礎知識」
- 日本ユニフォーム協議会「ユニフォームなんでもQ&A」
- 日本ユニフォーム協議会「企業ユニフォームリサイクルにおける可能性」
- 国立国会図書館レファレンス協同データベース「女性事務服の市場動向・廃止資料」
- 国立国会図書館レファレンス協同データベース「女性のオフィスファッションの変化」
- 労働政策研究・研修機構「事業所における労働者の清潔保持等に関する調査」
- 労働政策研究・研修機構「服装・髪型のカジュアル化に関する企業調査」
- 厚生労働省「雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために」
- 厚生労働省 都道府県労働局「男女雇用機会均等法に関する相談事例」
資料は2026-09-27に確認しました。年代の大枠は日本ユニフォーム協議会『仕事服の沿革』を起点に、国立国会図書館のレファレンスが示す文献群、JILPTの労働調査、厚生労働省・労働局の均等取扱い資料を照合しました。業界史には執筆者の評価を含むため、個別の起源説や企業事例を唯一の定説として断定せず、統計の『着替えが必要』も事務服だけの着用率とは解釈していません。